「福島から語る」Vol.8 大内信一さん(2017年9月23日)

先程言った、何で冷害の年はスイカ、トマトがだめで、ジャガイモ、カボチャがいいのかというのは矢張り、寒い夏はスイカやトマトは食べなくてもいいんだよ、カボチャやジャガイモで体を温めて健康になれということだと思います。私はいつもそれを言っていたわけです。ところが今年は、あの雨の中でスイカがよくできたんです。ということは、矢張り6月、7月の天気がすごくよかったからだと思います。そうすると、米も、8月10日から15日の間にコシヒカリなどは穂が出るのですが、その1カ月前に、体の中に小さい穂ができるわけです。その時に天気がよかったので、体も穂も元気にできる。甘いスイカを食べながら、私は「あぁ、これは米も何とかなるんでねえか」と楽観したんです。来月になると稲刈りが始まります。収量は11年ほど高くはないでしょうが、今、見事に実っています。
うちの息子もいろいろ情報を集めています。前は、稲にも小麦にも肥料をやらないと取れない、生育しないと思っていたんです。ただ、東北の米の場合は、病気とか虫は肥料さえ少なければいいと思っていたわけです。それを無肥料でやるんですね。田植えも水をいっぱいためたままする。そうすると、草も生えない。無肥料、無農薬で、何にもやらないから、コストはすごく安いわけです。一部、草はありますから、除草するので、労力はちょっとかかります。
先程言ったように、福島で米や野菜等に100ベクレル以上の放射能が出ると出荷停止になりますが、福島で100ベクレル以上出たところは、河原とか、砂がいっぱいあって、地力、土の力がないところなんですね。そういうところとか、山から出た水が直接、田んぼに入った。そういうところで高い値の放射能が出たわけです。特に我々、有機栽培をやり、土づくりも長い間丁寧にやってきましたから、福島の土の力を思い知らされたわけです。土に栄養分があって、力があれば、それで充分。人間も腹が減っていないと、何も食べたくないけれど、作物もそうなんです。栄養が足りないと、放射能も肥料分と紛らわしく、カリウムなんかもあるので、それを吸ってしまうんです。作物は他の栄養がちゃんとあれば、まずいセシウムを吸わなくていいということです。
これは私の独断なんですが、そんなふうに感じています。福島全体の土がいいということもあるし、我々の土づくりの成果もあったのかなと。チェルノブイリとは土の力が違う。土もありますし、作物もそういう賢さを持っていると私は思っております。
時々、消費者から怒られることがあります。無農薬の作物を届けると、虫食いだらけとか、物が悪かったかと思うんですが、真っ直ぐなキュウリと虫がついてないキャベツを出荷した時に、こんなキャベツ、こんな真っ直ぐなキュウリ、無農薬でできるはずないと怒られました。何年かに一回、そういうような苦情が来ます。今年の春かな、うちと長くつき合っている生協の消費者から、そういう苦情が来ました。天気がよければ、キュウリは真っ直ぐに育ちます。栄養過剰になると、一時真っ直ぐでも、すぐ病気になります。農業の基本は適地適作。これはよく聞きますよね。それと、適肥です。適当な肥料と適作。それと時期。その3つ。作物に合った土地と、適当な肥料と、時期なんです。
キュウリも適肥、栄養過剰でもない栄養失調でもない、そうすれば、真っ直ぐなキュウリがとれます。あとは手入れです。下の方は風通しも悪くなります。いろいろ技術があります。我々はプロですから、その辺はちゃんとやります。ただ、自家用にして、幾らでもなり放題にさせると、直ぐにひん曲がって、チビダレみたいなキュウリができるわけです。
キャベツは時期を選びます。キュウリは時期を選びません。うちは、キュウリは夏にしか作りませんから、時期は選びませんが、キャベツは時期を選んで作付けします。今、我々の畑にもキャベツがいっぱいあります。モンシロチョウが飛んでいます。便りにも書きましたが、虫取りは戦いどころではなく、もう格闘と言ってもいいくらいです。大体3回ぐらい虫取りをすれば何とかなります。冬のキャベツは7月に蒔き、移植をし、定植して育っていますが、今は虫がいるわけです。ところが、春の6月10日までに出荷すれば、虫は出ないというのが長い経験でわかってきました。そうすると、6月10日までに収穫するには、いつ蒔いて、いつ植えて、どんな手入れをすればいいかが、段々わかってきました。そうすると、5月末や6月に出荷するのは、覆いをしなくても、きれいなキャベツがとれるわけです。