「福島から語る」Vol.8 大内信一さん(2017年9月23日)

そういうことで、全国からの支援で放射能測定器も買い、あらゆる作物を測りました。その年、2011年はすごく天気がよくて、今年の悪天候に比べると考えられないくらい適当に雨が降り、晴れも本当に多くて、温度も春は春らしく、梅雨は梅雨らしく、夏は夏らしい天気で、いい米がとれました。米の収穫量が多い時は粒も大きいんですね。そして味もいいわけです。そんな神様の恵みがいっぱいあって、私はその天候のよさにも、神様は我々を見捨てはしないんだと感じたわけです。あれだけの震災があって、原発事故があって、その上天気もよくなかったら、どうしても我々もしょげるわけですが、しかし恵みがいっぱい与えられたということです。
我々のところはキュウリの大産地なんですが、キュウリもみんな作付けして大丈夫なんだろうかと思ったんです。値段も結構よく、それに福島はほかの産地よりは下落幅がちょっと多いので、補償も出ましたから、キュウリに関しては被害は割合、少なかったわけです。ところが米に関しては、我々の農作物は一つでもその地域から100ベクレル以上のものが出ると、その地域全体が出荷停止となります。だから、福島の場合、何カ所かそれが出たので、福島の米は廃棄処分なんです。自分で食べる分と親戚にやる分くらいはいいが、あとは全部買い上げて廃棄処分です。あれほどいい米が廃棄処分になったわけです。
うちの隣の村で、我々と同じように無農薬でやっている農家が、冬に水をいっぱいためて、除草とか稲の生育を安定させるということをしている。うちらも時々見に行きました。すごくいい稲を作っていました。水の大切さとか、そういうものをすごく思っていたんです。ところが、ものすごい面積の田んぼがある穀倉地帯にある彼の田んぼの米だけが100ベクレル以上出ちゃったんです。普通、冬は水が来ないので、雨が降った時に田んぼにいっぱい溜める。震災の後に雨が降ったので、放射能がいっぱい入った水を冬、溜めておいたものだから、稲に出ちゃったというわけです。彼に責任は何もなく、ただ安全な米を作ろうとしてやったのに、その田んぼだけから放射能が出たので、村中が出荷停止になり、彼はすごくつらい目に遭ったんです。彼は悪いことは何もしていない、安全な米をつくろうとしただけなのに、大変な目に遭ったのです。
うちの友達、同級生で酪農をやっている人がいます。今は、餌の多くを輸入しているわけですが、彼は自分の土地で草を育てて、牛を育てたい。安全な牛乳を生産したいということで、できるだけ自分の周りの土地を買ったり借りたりしながら多くの面積で草をつくっていたんです。先程言ったように、草に放射能が多くあればすぐ出ます。彼の場合は、自分の土地の餌が大半だったので、原発事故の時は余計、大変だったわけです。自分のところの草を全然食べさせられなくて、外国から買ったものしか食わせられない。外国の草とか餌を食べさせた牛は牛乳も出荷できました。堆肥については、今、牛がいっぱいいますから、我々もそういう牛屋さんから堆肥を購入するわけですが、その堆肥も売れない。牛乳が売れないとともに堆肥も売れない。本当に大変だったのです。ただ採算を考えるだけの酪農家ならば、自分で草を生産するよりも、安い外国の餌を買ったほうがいいと考える。そういう人が多い中で彼は頑張った。なのに逆になってしまった。そのストレスでちょっと病気になったという、そんな例もあります。
これから浪江とか飯館に、やっと帰れる、自分が前いたところに帰れるようになった。しかし、帰宅困難区域が解消されたといっても、自分の家や田んぼ、畑をこれから再開していくのは本当に並大抵のことではないわけです。今はまだそういう人たちが数多くいます。うちの仮設は公民館のグラウンドに200戸くらいだったのが、今は5戸か10戸ぐらいがまだ残っている状況です。その人たちの中でふるさとに帰る人と公営住宅に移る人がいるわけです。これから、苦難がそういう人たちを待っていると思います。
仮設住宅の人たちに対して、最初、周りの人たちはみんな同情したんですが、我々一般の人たちと交流する中で、彼らについてだんだんいろいろなことが聞こえてくるようになりました。彼らは働いても働かなくとも、小さい子どもも大人も年寄りも一人10万円が支給される。5人いれば、月に50万円ずつ金が入るわけです。働かないで金が入るということは大変なことです。人間、本当は楽して金儲けしたいという思いがありますが、しかし、それが現実になると大変です。特に男なんかは、仕事はないわ、金はあるわだから、酒飲むか博打か、ほかの母ちゃんが恋しくなるか、そのくらいなもんです。子どもも、俺がいるために月10万円入ってるんだという頭があるから全く、子どもの教育にもならない。一般の中学生、高校生と避難した友達の経済観念が全く違うので、どうしようもなく、子どもの教育にもならないし、家庭破壊も相次いだという、そんな状況を見聞きします。