「福島から語る」Vol.8 大内信一さん(2017年9月23日)

震災で福島を応援しよう、助けようということで、私は多くの先生方や多くの人たちから支援を受けました。大学の先生方も数多く来まして、我々を指導してくれました。日本有機農業研究会という我々の団体がありますが、それには東京の消費者も入っているし、全国の生産者も消費者も入っています。そういう人たちが福島の支援をしようと、放射能対策には何が必要かということで、大型器械を提供してくださいました。大型器械で表面の土と中の放射能がない土を反転させ、深く耕す。そうすると、作物も放射能の吸収を少なくして、我々農民の健康も守ることになります。あとは「猫の手作戦」といって、毎年、春と秋に援農に来てくれます。福島の農家でない人たちも福島の土に触れると、自分も放射能に汚染されるのではないかというふうな不安もまだあります。学校で田植えをしようというと、そういう不安の声があって、田植えが中止になったなんていう話も聞きます。「猫の手作戦」に来る人たちは、福島に行って少しでも作業することによって、我々が1日10時間でする作業を1時間で終えれば、我々の被る放射能も少なくなるのではないかとの思いから、放射能を共有しようとしてくれました。そんな支援もありました。
放射能の検査機器も我々のグループで2台ありますが、値段は100万円弱ぐらいです。それはさっき言った、全国愛農会の人たちの寄付金で買うことができました。そういう多くの支援を受けているので、私も福島以上に困難を抱えている人たちに何か少しでも役に立つことができればとずっと思っていました。その時に、会津のクリスチャンの人たちが会津にも研修会があるから、ぜひ来いということで会津まで行って来ました。その教会で話を聞いた時、東京で路上生活をしている人たちに炊き出しをしているグループに、米や野菜を届けている長野県の、名前を忘れましたが、青年(山谷(やま)農場・藤田寛氏)の話を聞き、彼の言葉に打たれました。我々の米が余り気味だったんですよね。じゃ、米は届けられるな。野菜もいっぱいできる場合もある。そんなことが少しできるなと。じゃ、自分たちもできるだけのことはしようと思ったわけです。無農薬の米は普通、売ればちょっと高いんです。余ったのを一般の米として売れるんですが、しかしそれよりも、路上生活者に無農薬の米を、有機栽培の米を食べてもらうのも楽しいのではないかと思いました。そんなことで紹介された「ほしのいえ」と、もう一つの教会にずっと送り続けています。しかし我々、忙しいもので、用意してもなかなか送れない場合もあるんです。この前も、用意したのに送れないから、今日は少し無理してでも送らなきゃと思い、送ったんです。そうしたらその次の日、家内が「『ほしのいえ』の中村さんという人から手紙が来たよ」と言うのです。そのお便りの中で、もう米がなくてどうしようと思った時に宅急便が来て、「二本松からだよ」と。本当に助かりましたという便りをもらいました。
そんなことも、ある面では偶然かもわかりません。しかし私は、そこに神様の働きがあったと思うんです。会津でその青年に会ったというのもそうですし、炊き出しで待っている人たちがいるのに米がなく、フードバンクに問い合わせてもどこにもない。どうしようという時に、うちの米が届いたということも、やはり神様の計らいではないのかと思います。一般の神は神社や何処かにいると思っている人もいますが、我々の神は生きて働く神。そういうことを本当に実感した、そんなこともありました。
近頃の話をします。消費者に毎月一回ぐらい、こんな手書きの便りを出しています。今年の福島の天気は25日間ぐらい雨続き。雨が降っても、一日中じゃないのですが、東京も似たようなものだったでしょうか。そういう中で、米は大丈夫なのか、昔の冷害みたいなことにはならないのかという話を聞きました。そういう時でも私は割合楽観的だったんです。この便りにも書きましたが、スイカがすごくよくできたんです。自家用に作っていたのですが、8月は雨ばかりだから、もうスイカは駄目かと思っていました。畑に行かなかったのですが、8月になって畑に行ってみたら、ものすごくゴロゴロなっているわけです。私のところには大きい冷蔵庫がありますので、そのスイカを50個ぐらい入れました。大きいのは10キロ近くもあるわけです。自分のところだけでしか食べないから、売るつもりがないので、近所や仲間にくれたわけです。「こんなおいしいスイカは食ったことねぇよ」という人たちが何人もいました。ということは、スイカ、トマトはなかなか病気に弱くて、天気の悪い年はほとんど全滅になることが多いんですが、今は消毒をしたり、ハウスの中で作るので、どんな天気でもよくできるということもあるわけです。しかし、私は全く覆いもしない、太陽の光線も当たりますが、雨も当たり放題。農薬ももちろんやらない。自家用ですから、手間もかけないでやっているんですが、そうすると、天気の悪い年はスイカの出来は全然だめ。そのかわり、カボチャとジャガイモはよくできる。今年もそのつもりでいました。8月になって一番スイカを食べる頃に雨ばかり降るので、もうスイカは諦めていたんですが、それがうまいんです。スイカが何でうまいのかと考えると、6月、7月の天気がよかったから。大体、花が咲いて1カ月位から40日位すると食べられるんです。8月、9月ですか。そうすると、その前にちゃんと花が咲いて、虫もいて、ちゃんと交配もする。そして根も充実して、おいしくなるんです。今年は、本当に今までにないくらいよくできたんです。