「福島から語る」Vol.8 大内信一さん(2017年9月23日)

先程、話しましたが、ニンジンはセシウムが少ないと聞きまして、そのころ畑にあったニンジンを畑ごとに何回も測ってみたのですが、セシウムはほとんど出ません。その頃まで少しジュースを作っていたのですが、評判がいいし、福島医大の先生が、ゲルソン療法といって、ニンジンで癌を治すというニンジンの効能も聞いていましたので、皆でニンジンを作ろうということになりました。消費者が6割も減ってしまったので、何を作るかというのが我々の課題だったのです。その河田先生の話を聞いて、このニンジンジュースにたどり着きました。
ニンジンは冬とれますが、夏は、貯蔵がなかなか大変なので、一年中出荷するのにはジュースしかないだろうということになりました。自分たちで加工所を作るのは大変なので、新潟で手広くジュース工場をやっている先輩がいたので、そこにお願いしました。おかげさまで、「福島やさい畑」を通して、全国からの注文もあって、順調にニンジンの生産に励んでおります。ちょっと高いです。本物は高い。しようがないね。全く本物ですから、これは。有機栽培で、それも添加物が入っていませんから……。我々以外のものは、梅のエキスとレモンのエキスが2%だけ。あとの98%は我々のニンジンです。添加物は全く入っていません。
野菜は今、大体元に戻っています。多くの人たちの「福島を支援しよう」という動きと、昔の人たちが戻ってきたことで、野菜はほとんど前の状況に戻りました。生協の消費者、地元生協などは若い人たちが多いから、福島ではなくて、有機栽培の野菜が食べたいからと、四国とか九州のものを生協を通して取り寄せていたようですが、やはり値段も高くなるし鮮度も悪い。地元の有機野菜や米を食べたいと言うのもあって、生協も元に戻り、この頃はかえって増えているくらいです。
震災前、うちは、大豆と米は足りなくなったり余ったりというのを繰り返してきたのですが、大豆は納豆屋さんと契約し、米は自然食品店さんで大体全量が捌けるようになりました。しかし、それが震災で、幾ら放射能レベルは低いといっても、福島のものは取り扱わないということになりました。そうすると大手は、福島産がだめだから、他から手当てをする。そうすると、なかなか福島には戻れないというので、今、大豆と米はまだ苦戦しております。しかし、やはり我々は無農薬をやめるわけにはいかないので、全部、無農薬でやっております。
大豆は、納豆屋さんに全部とはいかないので、余った大豆で油にしてみましたが、やはり本物は高いので、油はなかなか売れません。菜種なんかも作って加工しているんですが、なかなかやっぱり販売には苦労しております。
百姓なもので、話があっちこっちになってしまうのですが、前に農業委員会でオーストラリアに農業視察に行ったことがあります。オーストラリアの農家、200町歩ぐらいというからオーストラリアでは中くらいの農家なんですが、スキー場があるふもとで水もあるので、1年は米を作り、1年は小麦を作り、あと1年は羊の放牧をする。理想的な農業経営だと思いました。圃場、住宅の周りにも全部バラ線を張って、羊が逃げないようにしています。稲は、そんなに肥料は要らないんですが、小麦はいっぱい肥料が欲しいので、羊の糞を使って小麦を作ります。そうすると、家畜も加えた輪作でよくできるので、本当に理想的だと思ったんです。そこにタンクがあって、そのタンクに収穫したばかりの小麦があったんです。農家の人らが見せてくれたので、タンクを開けて中を見せてもらいました。うちらがちょっと噛もうとしたんですね。小麦って、ちょっと噛んでみたくなるわけです。そうするとその家の主人が「それはだめ、だめ」って言うんです。それは、ポストハーベスト、収穫後の農薬で、虫がいないように殺虫剤が小麦に入っているということだったんです。
うちの小麦粉ですが、これは普通、冷蔵庫に入れないでおくと、虫が出るわけです。ところが、外国から来たものには全く虫が出ないわけです。農家の庭先で殺虫剤を入れるくらいですから…。港に置いた船の中、あるいは日本に来た時に虫が出れば、買い取り不能になるから、ある面ではやむを得ない面もあるんですが、日本は、生育中の防除は野菜でも稲でも小麦でも許されていますが、収穫後は許されていません。しかし、外国産は、遺伝子組み換えもありますし、ポストハーベスト、収穫後の農薬の害のことも考えると、絶対自給しなきゃならないと思いました。小麦として売っては非常に安いので、こんなふうに、小麦粉とうどんに加工して食べたり、販売しております。