「福島から語る」Vol.5 信木美穂さんと避難者Kさん(2013年6月29日)

信木)Kさんが福島から避難してきて、一番願っていることはどんなことでしょうか。
Kさん)目先のことだと、住宅の期限延長のことです。来年(2014年)の7月までと、期限が切られていますので、それを過ぎたら、どんな状態でも福島に帰されてしまうのではないかと心配しています。
分断がひどいです。いわき市には避難区域の方々と、元々いわき市に住んでいた方々がいます。すなわち、被災者が被災者を受け入れるような状態です。しかし、避難してきた人たちは慰謝料をもらっていて、受け入れる側の方はお金をもらっていないのに、税金を払い続けている。向こうは税金を払わずにお金をもらっていると言って、醜い争いになっています。信じられませんが、車を壊したり、壁を壊したりがあちこちで起きています。今までは、このような争いがある町ではありませんでした。人がものすごく憎しみ合う町になってしまっているのがとても心配です。
さらに、避難している人たちが一斉に避難先の住宅から追い出されて帰るとなると、いわき市の人は いわき市に帰ります。双葉町や楢葉町の人たちもやはりいわき市を望むと思います。自分の地域に帰れない方は、地形的にも気候的にも郡山市や福島市や会津若松市に比べて、 いわき市が一番住みやすいと、いわき市を希望するのではないかと思います。そうすると、人口も増えます。分断の問題も出ます。最近になってようやく、避難が認められている地域の方と普通に話せるようになってきたのですが、この二年間は、本当に会話がまともにできませんでした。いわき市だとわかった瞬間に、お互い何かがピシッと走ってしまい、その先、会話ができなくなっていました。
赤坂プリンスの頃は、とにかく「いわきに帰れ、あそこには放射能はねえべ」と言われるのが怖くて、いわき市出身と言えませんでした。避難地域の方々に賠償金が支払われ始めると、今度は、いわき市の人間が逆に「お前ら、もらってんだろう」と言い返すようになり、向こうもしゃべれなくなりました。お互いにびくびくするような、難しい人間関係になってしまいました。
それがようやく最近になって、何人かが一緒にヨガをしたりしながら話をするというような機会が増えてきました。そして、「両方つらいんだ」ということがよくわかるようになりました。お金をもらっているから耐えられるということではないのですね。何千万円もらったからと言って、苦しみがなくなる訳ではありません。家族もまだ無理やり引き離されています。そういう思いをしている人たちがお金をもらったために、何も言えなくされているのも、本当に辛いことです。一番辛いのはそこなのです。
私たちの町をどうか誰か何とかしてください。何とかみんなが平安に暮らせるようにして欲しいと思っています。国がお金を使えば使うほど、そのたびににらみ合いが増え、人が分断されていく。そこを何とかして欲しいです。
もし、福島に行く機会があったら、福島のすごくきれいなところを見て来てほしいです。海や山は、目で見る分には、今でも同じようにきれいです。横浜生まれで福島に嫁ぎました。15年間は福島県民でした。初めて福島を見て、一発で定住を希望したほどです。11月の福島(いわき)は最高にきれいです。山や、魚がたくさんいる海、きのこや山菜が採れます。目で見る分には今でもきれいです。それを見て欲しいです。それが失われてしまった、毒になってしまったということも含め、そしてそれが私たちの一番の悲しみなのですが、その美しい福島を見て欲しいです。お願いします。
信木)東京に避難している方だけでなく、福島県内で避難している方たちもいます。会津若松市に、そして福島の北の方からは、近いと言うこともあり、山形県の米沢市に避難している人たちもいます。いろいろなところに避難している方たちがいます。避難先での生活は厳しい状況です。例えば、会津若松市の場合、一時自主避難してきた人たちの家賃が補償されなかったり、学校に行かせてもらえなかった事件がありました。住民票があるところの学校に行きなさいと市が言ったのです。 米沢市は、支援団体がどんどん撤退しました。助成金が切られましたが、逆に、帰還支援事業という助成金だともらいやすいということもありました。要するに、福島県内に帰りなさいということです。帰還を支援するNPOやボランティア団体なら、お金を出しますという動きです。そのような訳で、支援団体の人たちも辛いし、困っています。すごく複雑な状況になっています。
避難している人たちも、このまま支援が途切れて、避難できなくなるのかと不安に思っています。福島県の自主避難の人たちは約3万人から5万人くらいと言われています。東京には7,500人くらいおられ、関東圏だけで1万人を超えています。
実はKさんは今回、福島原発被害東京訴訟という裁判を起こされた原告の一人です。ぜひ、皆さんに支援していただけたらと思います。具体的には、サポーターになっていただければ、次の裁判のお知らせ、裁判傍聴のお知らせ、報告会のお知らせなどをメールでお出しいたします。サポーターをどんどん増やし、国民が関心を持って見ているぞという裁判にしていかないと、避難区域の人たちだけの補償で終わってしまいます。
要するに、東電がこのくらいのお金でどうですか、という条件を呑まなければならないかもしれない。東京訴訟の原告は今、3人ですが、今後はどんどん増えていくと思います。次回は10人ぐらいになる予定です。同じような裁判は山形や他の県でも行なわれることになっています。